建て替えとリフォームの違いは?住まいに対する考え方もプロが徹底解説!

2022年7月26日

実家の家が老朽化してきたり、バリアフリーにしたい時などリフォーム・建て替えを検討する時期はさまざま。しかし、建て替えとリフォームどちらがよいか、また建て替え・リフォームを検討するタイミングなどを見極めるのは難しいですよね。

今回は、建て替えとリフォームの違いや住まいに対する考え方を田口 寛英さん株式会社田口住生活設計室 代表)にインタビュー!建て替えとリフォームのメリット・デメリットをはじめ、「幸せ」という面から考えた暮らしの形などをお聞きしました。

 

お話しを伺った方 田口 寛英さん

大学卒業後、家電メーカーに就職し営業職に従事。建築資材の問屋を経営する父の「売ってはいけない。買っていただける人になりなさい」という言葉を軸に、お客さまの立場に立った業務に打ち込む。

その後は自らも建築業界に転職し、1998年4月に調匠工建築設計事務所として開業。2009年4月に田口住生活設計室に名称変更し、2014年8月に法人化して現在に至る。「ぬくもりある暮らしを作ろう」というテーマのもと、「売らない建築屋」としてリフォーム工事や耐震診断、住宅コンサルティングなどを行っている。

 

建て替えとリフォーム、それぞれの特徴は?

建て替えとリフォーム、それぞれどのような特徴があるのでしょうか。費用面もあわせてお聞きしました。

 

思い出を残せるか残せないか

ー建て替えとリフォーム、それぞれの特徴はなんですか?

建て替えは元の家を一度壊して新しい家につくりかえるため、間取りなどを自由に変更できるほか、断熱性能などの新たな機能を取り入れられることが特徴です。

反対に、リフォームでは建て替えのように元の家がなくなるわけではないため、家の思い出を残しながら改修できる点が特徴だといえるでしょう。

家は柱の傷一つ取っても、住んでいる方の思い出がたくさん詰まっているものです。思い出をとどめながら生活をするか、まったく新しい生活をするかの違いが大きいかと思います。

 

費用は建て替えのほうが高い

ー費用面ではどちらのほうが高いのでしょうか。

建て替えはすべて作り変えるため、リフォームよりも費用は高くなります。

リフォームは予算に合わせてキッチンや床、壁などを一つずつ新調できるため、予算に合わせて工事ができます。

 

建て替えのメリット・デメリット

建て替えとリフォームのどちらにするか決める際は、両者の特徴を押さえておくことが大切です。建て替えのメリットやデメリットをお聞きしました。

 

建て替えのメリット

ー建て替えのメリットはなんですか?

一から作るため、間取りを一新するなど思い通りの家にできることです。そのほか耐震性能や断熱性能、太陽光パネル設置などの新たな住宅機能を導入する場合は、建て替えのほうがよい場合もあります。

 

建て替えのデメリット

ー建て替えのデメリットはなんですか?

思い出を残せないことと、金額がリフォームより高くなることです。建て替える場合は、何年自分の家が使われるか考えることをおすすめします。

ライフスタイルや将来の家族構成、建て替えた家を自分の子どもが使い続けるかどうかなど、具体的な家の未来を想像して建て替えるか否かの判断をしましょう。

 

ー思い出を残しながら家を高機能にすることはできないのでしょうか?

(一社)住宅医協会という団体が行っているリノベーションはかなりレベルが高く、もとの家を保ちながら耐震性や断熱性を高められるといわれています。新築を建てるくらいの費用が必要になるため、予算と照らし合わせながら検討しましょう。

 

リフォームのメリット・デメリット

建て替えはすべて一から作り直すため思い通りの家にしやすい分、費用もかかることがわかりました。

リフォームのメリット・デメリットを見ていきましょう。

 

リフォームのメリット

ーリフォームのメリットはなんですか?

自分の予算内でできることや、家の思い出を残せること、地球環境にやさしいことなどが挙げられます。

建て替えは今ある家を壊して資材を一から調達してつくるため、地球環境によいとはいえません。断熱性能の高いエコな住宅にするために建て替えを行うケースも見受けられますが、今ある物を壊さずに使っていくほうがよっぽど地球にやさしいと思います。

 

リフォームのデメリット

ーリフォームのデメリットはなんですか?

耐震等級3の家にしたい場合や、断熱性能など新たな機能を取り入れた家にするには、リフォームだと限度があることです。高性能の住宅にしたい場合は、建て替えのほうがよいでしょう。

 

建て替えを検討する判断基準は?

建て替えとリフォーム、それぞれにメリット・デメリットがありましたね。建て替えるべきかリフォームを選ぶべきか、悩む方も多いのではないでしょうか。

建て替え・リフォームを検討する判断基準についてお聞きしました。

 

基礎が傷んでいる場合は建て替えのほうがよい

ー建て替えかリフォームか、どのように判断すればよいのでしょうか?

地盤沈下や基礎が大きく傷んでいる場合は、建て替えのほうがよいでしょう。ただし、少し基礎にクラック(割れ目)が入っているくらいでは地震などで家が倒壊することはありません。

 

ーそうなんですか!?

はい。耐震性でいうと基礎のほかに、屋根の重さを心配する方も多いですね。たしかに基礎は大事ですが、耐震性を左右する要素は壁(筋交いや耐力壁)の量、壁の配置バランス、構造金物の有無の3つ。とくに壁の量が一番大事ですので、基礎が傷んでいる=耐震性に欠けるわけではありません。

 

リフォームを検討するタイミングって?見定め方は3つ

リフォームは建て替えよりも安価にできる分、検討するタイミングを見定めるのが難しいですよね。田口さんが語るリフォームの種類は3種類あり、それぞれで検討するタイミングが異なるといいます。

リフォームを検討する3つのタイミングをお聞きしました。

 

①家を長持ちさせるリフォーム

ー家を長持ちさせるリフォームとは?

家を長持ちさせるためのリフォームは、「気が付いたとき」に行うのがよいでしょう。

 

ー何に気が付いたときにリフォームを検討するのでしょうか?

雨漏りや漏水です。雨漏りは、気が付いた時点ですぐに直してもらう必要があります。

水に弱い木材の傷みが進行するだけでなく、白アリや腐朽の被害も広がってしまいます。

 

ー雨漏りに早く気づける方法はありますか?

天井から雨粒がポタポタと落ちてこない限り、一般の方が気づくのは難しいでしょう。

雨漏りは天井から雨粒が落ちてくるだけではなく、床下という見えない部分からも進行しています。自分一人では限界があるため、信頼できる建築家の方や工務店を見つけておくことが大切です。

 

ー信頼できる住宅業界の方を見極めるコツはありますか?

業者の良し悪しを判断するのはプロでも難しいため、私たちのようなコンサルタントに相談するのがよいでしょう。

大手だからという理由で安易に業者を決めるのではなく、複数の業者を比較検討しながら決めることが大切です。

 

②快適に過ごすためのリフォーム

ー快適に過ごすためのリフォームとは?

快適に過ごすためのリフォームは、「やりたいとき」に行うのがよいでしょう。

 

ー「やりたいとき」を見定めるコツはありますか?

キッチンなどの住宅設備をあと何回取り換えるか考慮しながら、タイミングを決めるとよいでしょう。

50歳の時にキッチンを買い替えたいと思った場合、90歳まであと40年ですよね。いま取り替えると残り40年も使わないといけないため、もしかしたら50歳で1回、70歳で1回の計2回取り替える必要があるかもしれません。

10年はキッチンの取り換えを我慢し、60歳で取り替えるならばキッチンのリフォーム回数は1回で済みますよね。「やりたいとき」は人生から逆算して考えるとよいでしょう。

 

③安心・安全のためのリフォーム

ー安心・安全のためのリフォームとは?

安心・安全のためのリフォームは「なるべく早く」行います。

 

ー何を行うのでしょうか?

なるべく早く、家の健康診断ともいわれる耐震診断を行いましょう。

自分の家が地震に強いか弱いか、弱いとしたらどの部分が弱いのかを知ることで、無駄な出費を減らせます。

 

ー無駄な出費とは?

耐震診断で浴室の壁が弱いと判断された場合、浴室のリフォームと一緒に壁も修理すれば効率的ですよね。耐震診断をする前に浴室のリフォームをした場合、再び壁の修理もしないといけないため無駄な出費につながってしまいます。

なるべく早く耐震診断をして補強工事をすることで、将来かかるであろうリフォーム費用を節約できます。

 

家の寿命は何年?持たせるのがプロの仕事!

家の寿命は40~50年と一般的にいわれている一方、「家の寿命はその家の持ち主が決める」と話す田口さん。家の寿命や長持ちさせる方法についてお聞きしました。

 

明治時代の家が残っている

ー家の寿命は何年ほどになるのでしょうか?

家の寿命は40~50年といわれることも多々ありますが、まったくそのようなことはありません。お客さまが100年家を持たせたいというのであれば、それを叶えるのが私たちの仕事です。

埼玉にある明治後期につくられた渋沢栄一の家は現在も変わらず残っています。「渋沢栄一はお金持ちで家が豪邸だから残っているのだろう」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、隣にある渋沢栄一の先生の家(尾高淳忠宅)も残っています。豪邸でなくても同じ時代の家が現在も残っているため、大切にしようと思えば何年でも持たせられるのです。

 

家を長く持たせるには

ー家を長く持たせるには、どうすればよいのでしょうか?

「この人(会社)に大切な家を任せたい」と思えるような信頼できる家のパートナーを見つけましょう。

台風で屋根が飛ばされたとき、どこに修理を依頼しますか?多くの場合は頼み先を見つけるのが難しく、1か月順番待ちになることも珍しくありません。

病院に定期健診に行くのと同じで、家も定期的にメンテナンスする必要があります。日々のメンテナンスを通じて信頼関係を築くことで、いざとなったとき大きな味方になるのです。

 

ー困った時、誰に頼んでよいかわからないのは怖いですね…

はい。何年か前に千葉で台風の被害があった際、ブルーシートをかけるだけで20万円の費用がかかるという事例がありました。専門家から見ればかなりおかしい金額設定である一方、やってくれる人に頼まないといけないため、やむを得ないんですよね。

多額の費用をとられたり、修理の順番待ちにならないためにも、信頼できる業者を見つけておきましょう。

 

決して安くない金額だからこそ、立ち止まって考える

建て替えやリフォーム、新築などの工事はどれも決して安くはありません。一般の方だけではなく実務者も費用負担を考慮し、お客さんに寄り添うことが大切です。

住宅にかかる費用の考え方についてお聞きしました。

 

工事は本当に「今」必要?

ーリフォームや建て替えの相談は多いのでしょうか?

はい。リフォームでも新築でも、プランニングを重ねるうちにどんどん夢が膨らんで見積もりが高くなるというケースは多いですね。

お腹に赤ちゃんがいる段階で子ども部屋の増設などを検討している方には、子ども部屋があと何年後に欲しいかを確認します。5~10年後には家族構成が変わって部屋が余る可能性もありますし、そもそも子ども部屋が必要になるかもまだわからないためです。

大切なのは「今」工事が本当に必要かどうかを考えることです。

 

実務者や専門家も、一般の方に寄り添う考え方を

ーたしかに、無駄な出費を防ぐことにつながりますね

はい。業者の人は皆、200万円の見積もりなどを平気でお客さまに提出します。自分に置き換えてみると200万円の出費は非常に大きいですよね。子育て中だったり子どもが大学に通っている場合は、学費で精いっぱいというケースも多いと思います。

実務者は200万円を出すことによってその人の将来がどうなるかを考え、お客さまに寄り添っていく力が必要であり、お客さまは「自分で」住まいについて考える力が求められると思います。

 

これからの住まいに対する考え方

建て替えかリフォームか、家を建てるか建てないかも、自分の軸をもって考えることが大切です。

これからの住まいに対する考え方についてお聞きしました。

 

あなたにとっての幸せは?

ー田口さんがリフォームや建て替えの相談を受けた際、心がけていることはなんですか?

お客さま自身が、自分の人生観や大切にしているものに気づけるよう心がけています。建て替えかリフォームかの判断をはじめ、家を買うか買わないかも、すべてお客さまの経済状況や価値観によって決まるためです。

 

ー価値観とは?

自分や家族にとって何が幸せかを考えることです。極端な例を出すと、住宅ローンの返済に追われながら夫婦2人とも共働きで子どもが一人家にいる環境か、賃貸のアパートでも子どもが家に帰ると家族が迎えてくれる環境か、どちらが幸せでしょうか。

自分にとっての幸せが「家族との時間を大切に過ごすこと」だとすると、マイホームは必要ないかもしれませんね。

 

ーなるほど。必ずしもマイホーム=幸せとは限らないのですね

はい。もちろん、自分にとって理想の家を建てたいとか、小さいころ賃貸アパートで個室がなかったから子どもには部屋を与えたいなどといった夢がある方は、家を建てることが幸せにつながります。幸せの定義や何を夢とするかは各個人の人生観にも通じるため、それぞれの夢を実行すればよいでしょう。

「男たるもの一国一城の主になって一人前」「一生賃貸に住むのは恥ずかしい」などといった他人の目を気にして家を購入するのではなく、自分がどうしたいかを考えることが大切です。

 

情報が操作される時代だからこそ

ー自分の軸で決めることが大切なのですね

そうですね。今はネットに情報があふれているだけでなく、自分に興味があるコンテンツを優先的に見られるような、情報が操作される時代です。YouTubeやTwitterを見ていても、自分が興味をもった(いいね!を押した)ものと関連のある情報ばかり流れてきますよね。

情報が操作されることで固まった価値観が広がり、自分軸で考えられなくなっていきます。

 

ー「夢はマイホーム」というキャッチコピーもよく見かけますし、いまだにそういった価値観も根付いていますよね

昔ほどではないのですが、今でもマイホーム購入を夢にしている方は多いと思います。極論をいうと、そういったキャッチコピーも一種の洗脳のように感じます。

度々テレビなどで取り上げられている、リビングで子どもが勉強する「リビング学習」をご存じでしょうか?リビング学習とは、別にリビングで勉強するから頭がよくなるわけではありません。家族とよい関係を築きながら、家族がいるところで勉強できるため成績が伸びるんです。今流行りのアイランドキッチンも同じです。キッチンを対面にしたから会話が増えて家族関係が良くなるのであれば、誰も苦労しません。

リビング学習しやすいLDKやコミュニケーションがとりやすいキッチンなど本質を見ずに流行を取り入れると、その家族には合わない、使い勝手の悪い家になるのではないでしょうか。

 

ーたしかに。知らず知らずのうちに、価値観が固定化されてしまうのですね。

はい。流行のものだけでなく、「子ども部屋がないと可哀想」「家の建て替え時期は40~50年」「夢はマイホーム」といった、まるで常識のように人々の脳内にインプットされている価値観も同じことです。情報が操作され、自分で意思決定できない方が増えているように感じます。

 

「いい家」は育てるもの

ー自分の幸せは何かを考えながら住まいを考えるのが大切なのですね!

そうですね。最新の住宅設備や人気の間取りを取り入れたものが「いい家」ではありません。極論99人が「この家は変だ」と思っても、自分の家族がいいと思うならば「いい家」であり、誰にも邪魔される筋合いはありません。

自分の軸をもって住まいに向き合い、家族にとっての「いい家」を育てていくことが大切なのです。

 

まとめ

いかがでしたか?建て替えとリフォームの違いや考え方だけでなく、住まいに関する向き合い方もプロの目線から学べましたね。

家は、幸せをつくる一つの手段に過ぎません。自分や家族にとっての幸せは何かを確認し、自分の軸をもって住まいについて考えていきましょう!

 

会社名 株式会社田口住生活設計室
代表 田口寛英
所在地 埼玉県さいたま市北区本郷町1579
電話番号 048-729-4517
設立 2014年8月
事業内容 住宅コンサルティング、耐震診断・調査点検、リフォーム工事
公式サイト https://taguchijyuseikatsu.com/