住宅ローンの変動金利が一気に上がることはある?変動金利の仕組みを解説

2022年12月3日

2022年11月現在も進んでいる日本の物価高。物価高騰を抑えるためには金利を上げる(=金融引き締め)必要がある一方、金融引き締めを行うことで、住宅ローンの変動金利も一気に上がるといったことも噂されています。

この記事では、住宅ローンの変動金利の仕組み・変動金利の決め方・日本の政策金利について解説し、変動金利が一気に上がる可能性はあるのかを考察。また、変動金利が一気に上がるときに備える対策法もご紹介します。

これを読めば、変動金利・政策金利について理解できます。住宅ローンを変動金利と固定金利とどちらで組むのか検討する際に役に立ててみてください。

 

変動金利が一気に上がる可能性はある?

変動金利が一気に上がるかどうかは、物価高、円安、政策金利といった3つの要因を分析しながら考察する必要があります。

 

世界規模の物価高と円安が影響する

2022年2月24日にロシアがウクライナに軍事侵攻を開始し、ロシアに対して欧米諸国を中心に経済制裁が実施され、ロシアからの原油・天然ガスの輸出が制限されました。その結果、世界中で原油・天然ガスの供給量が減少して物価高を招いているといわれています。

そして2022年3月以降、米国の中央銀行制度の最高意思決定機関であるFRBが米国の物価高を抑えるために金利を上げ始めました。それによって日米間で大きな金利差が生じたため、円を売って、高金利で運用できるドルを買う動きが増え、円安が進んでいます。

円安の影響から輸入品の価格が上がり、もともとの物価高と合わせて日本の物価が高騰!そこで、物価高を抑えるために「政策金利を上げよ」という要求が高まってきました。

 

現状では変動金利が一気に上がる可能性は低い

政策金利を上げると、連動した住宅ローンの変動金利も一気に上がります。しかし、政策金利を上げる施策は「好景気で物価が上昇した場合に実施されるもの」。政策金利を上げることでさらに日本の景気が悪くなる可能性があるため、今回の物価高には適用すべきではないといわれています。日米間の金利差が縮まり、円安が収まって物価高が多少ましになるとしても、不況を助長するかもしれません(この点については次節でくわしく解説します)。

こういった理由から、日本銀行が政策金利を上げる可能性は低いと考えられます。ただし、物価高が極端に進んで国民が耐えられなくなれば、景気悪化のリスクを承知で政策金利を上げ、住宅ローンの金利も一気に上がっていくことも考えられます。
つまり、現状では住宅ローンの変動金利が一気に上がる可能性は低いと考えられますが、将来物価が極端に上がれば変動金利も一気に上がる可能性があるということです。

 

住宅ローンの変動金利の仕組み

返済期間中に金利が変動する住宅ローンの変動金利は、半年に1回金利が変わり、それに応じて返済額も変わります。毎月1日の基準利率が前月1日の基準利率と比べてどれだけ差がでているかをみて変更する仕組みです。

基準利率は短期プラムレートと連動しており、基準利率が1%上がっていれば住宅ローンの金利も1%上昇します。短期プライムレートとは、銀行が優良企業に対して融資する際の金利のことで、短期プライムレートは日本銀行が決める政策金利に影響されます。

政策金利とは、景気や物価の安定などを目的として、日本銀行が設定する短期金利のことです。具体的には、日本銀行が金融機関へ貸し付ける際の金利をさします。好景気で物価が上昇した場合、政策金利を上げると民間銀行や企業が資金調達しにくくなり、景気が抑制されて物価が下降します。

日本銀行が設定する政策金利が上がると短期プライムレートが上がり、さらに住宅ローンの変動金利も上がる仕組みです。そのため、物価高を抑えるために政策金利を上げれば変動金利も上がってきます。

 

近年の日本における政策金利の流れ

日本銀行は2010年ごろから「包括的な金融緩和施策」を実施してきました。鈍化した国内景気の回復を目指して政策金利を実質0%にし、大量の国債・社債・ETFを買い取ることで多額の資金を市場へ供給しています。

それにもかかわらず景気が回復しないため、2016年1月から政策金利を-0.1%とする「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を実施。2016年9月から長期国債の買い入れを開始して長期金利の操作を始めました。そして、2020年4月からコロナ禍の影響で景気がますます悪化したため、金融緩和施策をさらに強化しています。

このように最近の日本における政策金利の流れは利率を上げるどころか、極限まで下げている状況です。にもかかわらず、日本の景気は回復せず「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を継続せざるをえません。

 

変動金利が一気に上がるとどうなる?

「みずほ銀行 – 住宅ローン返済シミュレーション」ツールを使い、変動金利型の住宅ローンで返済額がいくらになるかを計算してみましょう。

まず元本が20,000,000円、金利0.575%、返済期間20年で計算します。

  • ・毎月の返済額:88,236円
  • ・年間の返済額:1,058,832円

3年後に元本が17,144,565円になった時点で金利が5%に上昇したと仮定し、返済期間17年で再計算してみます。

  • ・毎月の返済額:124,890円
  • ・年間の返済額:1,498,680円

返済額が一気に上がり、返済が困難になるかもしれません。ただし、変動型住宅ローンには5年ルール、125%ルールがあり、実際は返済額が一気に上がることはありません。この点については次節で解説します。

 

変動金利型住宅ローンの返済額はどう決まる?

変動金利型の住宅ローンで金利が一気に上がると、返済額も一気に上がり返済できなくなることがあります。それを防ぐために設けられているのが5年ルール、125%ルールです。

5年ルールによると借入後5年間は月々の返済額が変わらず、その後は5年ごとに返済額を見直します。また、125%ルールによれば、返済額が増える場合は上限が125%。この2つのルールのおかげで金利が一気に上がっても返済額まで一気に上がることはありません。

ただし、金利が上がっても返済額が同じなら、金利負担分が大きくなり元本の返済が遅れます。たとえば毎年の返済額が100万円(元本90万円、金利10万円)として、次年度から金利が2倍になったとしましょう。毎年の返済額は100万円(元本80万円、金利20万円)になり、毎年の元本返済額が10万円減ってしまいます。

元本の残額が増えるごとに5年ごとに見直される返済額は増え続け、元本の返済が先延ばしにされるイメージです。当然返済期間を通じての返済総額も増えてしまいます。5年ルール、125%ルールには返済総額を減らす効果はありません。

 

変動金利が一気に上がるときに備える対策法

変動金利が一気に上がる際に備える対策法をご紹介します。

  1. 1.あらかじめ繰り上げ返済する
  2. 2.貯蓄しておき金利の上昇に合わせて繰り上げ返済する

 

1.あらかじめ繰り上げ返済する

返済途中で繰り上げ返済しておけば残債が少なくなり、金利上昇の影響を軽減できます。繰り上げ返済する場合の後処理法は以下の2通りです。

  • ・期間短縮型:毎月の返済額は同じで返済期間を短くする
  • ・返済額軽減型:返済期間は同じで毎月の返済額を減らす

将来の金利上昇のリスクを減らすためには期間短縮型が望ましいでしょう。ただしデメリットは、繰り上げ返済時に手数料がかかる場合があることと、住宅ローン控除期間が短くなることです。

 

2.貯蓄しておき金利の上昇に合わせて繰り上げ返済する

繰り上げ返済で手持ちの資金が減るのが不安な場合や住宅ローンの控除を受けたい場合は、貯蓄しておいて金利の上昇時に合わせて繰り上げ返済するとよいでしょう。具体的には固定金利型のローンを組んだつもりになって、変動金利と固定金利の差額分を貯蓄しておく方法です。

たとえば変動金利0.5%、固定金利2%ならば、1.5%分を貯蓄します。1.5%分を投資にあてて増やすのもよいでしょう。そして金利が上がったときに貯蓄を使って繰り上げ返済ができます。

 

まとめ

日本銀行が政策金利を上げれば、円安が収まって物価高が多少ましになるかもしれませんが、景気がますます悪化するため、政策金利を上げることが難しい状況です。政策金利が上がれば変動金利も上がるのですが、現状では住宅ローンの変動金利が一気に上がる可能性は低いでしょう。
ただし、将来物価が極端に上がれば政策金利が上がり、変動金利も一気に上がる可能性があります。そして、変動金利が一気に上がったときのための対策法として貯蓄、繰り上げ返済がおすすめです。