注文住宅は断熱材選びが肝心!性能やコストを徹底解説

日本の住宅は「夏暑く、冬寒い」とよくいわれるため、断熱材選びが肝心。住宅建築の現場ではさまざまな種類の断熱材が使用されていますが、どんな断熱材を使えば、夏の暑さや冬の寒さを克服できるのでしょうか。

 

欧米の住宅は断熱性能が高い?日本の住宅との違い

欧州は南欧を除いた大半の地域が日本より高い緯度に位置していますが、冬に一般家庭を訪ねると、室内がとても暖かいことに驚かされます。これは、建物の断熱性や気密性が日本より高いためです。

1970年ごろまでは欧米の住宅も断熱材は使われていない無断熱の状態であったため、冬の寒さは日本よりも厳しい状態でした。そこで、断熱材ではなく石油や石炭に頼りながら住宅全体を暖めていました。年間に使うエネルギー量は灯油換算で1平方メートル当たり約20リットルもあったといわれています。

ところがオイルショックが起きてエネルギーが不足すると、住宅の断熱化が進んで徐々に暖かい住宅が増えていきました。国土交通省によると、英国が冬の住宅内許容室温を18度と定めたため、欧州諸国で冬の室温規制が設けられたといわれています。

 

日本の住宅は通気性を重視したため、断熱基準を決めるのが遅れた?

日本は昔から通気性を重視した住宅をつくっていたため、オイルショックが起きても断熱性や気密性にそれほど目が向けられませんでした。「冬は寒くて当たり前」「暖房はもったいない」という感覚が根強くあったのでしょう。欧州のような住宅の室温規制はいまだにできていません。

オイルショック後の1980年に個人の住宅に関する断熱性・気密性の基準が初めて設けられました。しかし、東京都や大阪府など温暖な地域は単板ガラスにアルミサッシをすればよいという、断熱性の低いレベルのものでした。この基準に基づいてバブル期に年間約180万戸もの住宅が建てられたため、断熱性能があまり備わっていない住宅が多くなりました。

その後、政府は2013年に省エネルギー基準として断熱性能0.87を打ち出します。ここでいう断熱性能は床や外壁、窓などから外へ逃げる熱量を全体で平均化した外皮平均熱貫流率(UA値)で、数値が低いほど断熱性能が高くなります。しかし、全国に約5,000万戸ある住宅のうち、現行基準を満たすのは約10%。その他は断熱基準に満たない住宅なのです。

 

欧米は外断熱で日本は内断熱

断熱工法は日本と欧米で異なり、この違いも日本の住宅が夏暑く、冬寒いといわれる一因といわれています。日本は内断熱といって、柱の間に断熱材を入れるのが主流です。対して欧米は、柱の外側に当たる外壁の内側に断熱材を入れ、建物全体を断熱層で囲みます。この方式が外断熱です。

内断熱は工費を抑えられるメリットがありますが、断熱性や気密性が高いのは外断熱といわれています。このように断熱工法に違いがあることも、日本の住宅が夏に暑く冬に寒い原因のひとつといえるでしょう。

 

多種多様な断熱材は、性能やコストで一長一短

日本で使用されている断熱材の素材には、無機繊維系、木質繊維系、天然素材系、発泡プラスチック系の大きく分けて4種類があります。
無機繊維系の断熱材の代表がガラス繊維でできたグラスウール。安価であるため広く普及されている断熱材です。もうひとつがロックウール。玄武岩や製鉄時に出る副産物の鉄鋼スラグを繊維状に加工したもので、こちらも価格の安さが魅力です。

木質繊維系の断熱材の代表が古紙などを粉砕して綿状にしたセルロースファイバーです。結露を防ぎやすく防音効果がありますが、価格が少し高くなります。天然素材系で使用されるのは、羊毛を使ったウールブレスです。防虫効果が高く断熱性に優れていますが、こちらも価格が高いことが難点といえるでしょう。

発泡プラスチック系の断熱材の代表は、ポリスチレンフォーム、発泡ウレタンフォーム、フェノールフォームなどです。水を吸いやすいポリスチレンフォームは結露を防ぐ効果を持ちますが、燃やすと大量のススを発生させます。発泡ウレタンフォームは柔軟性が高く、壁に吹き付けて隙間なく施工できます。しかし、燃えると有毒ガスを発生させるのが難点です。フェノールフォームは断熱性能が最も高いうえ、耐火性が高く、有毒ガス発生の可能性も低いのですが、断熱材の中では最も高価といわれています。

 

断熱材を選ぶには?業者の情報収集も忘れずに

最近では、家全体に同じ断熱材を使用することは少なくなりました。壁用、床用、天井用など用途に合わせて商品化した断熱材を使用するようになったのです。また、断熱材に一定の仕様を設けるハウスメーカーが増えたほか、独自の断熱建材を開発するところも出てきました。よって、施工業者によって使用する断熱材が異なる傾向にあります。

希望の断熱材を選んでも、住宅会社によってはその断熱材を使えない可能性があります。注文住宅の施工業者を決める際には、あらかじめ使用する断熱材の種類、断熱効果、その業者の得意な断熱施工の情報を集めておくとよいでしょう。

 

ZEHマンションの登場で断熱化の流れが一気に加速

最近、首都圏や関西でZEH(ゼッチ)という名前がついたマンションが増えてきました。ZEHとは「ゼロ・エネルギー・ハウス」の頭文字を取って作られた言葉で、エネルギー収支を実質ゼロにすることを目指す住宅のことです。ZEHの普及で、住宅の断熱化はますます進むといわれています。
ZEHには複数種類があり、一次エネルギーの削減量が100%以上のZEH、75~100%のNealy(ニアリー) ZEH、省エネ性能だけで20%以上削減したZEH Oriented(オリエンテッド)があります。この中に断熱性を診断する外皮平均熱貫流率の基準が設けられ、0.60と規定されました。欧米の基準には劣りますが、省エネ基準より断熱性を高く設定している点がポイントです。

マンション大手の住友不動産、積水ハウスは2021年、相次いで今後建築する分譲マンションをZEH仕様にする方針を打ち出しました。二酸化炭素排出量の削減を目指して発想されたものですが、日本の住宅の断熱性能を高めたいという意図も込められています。

 

2050年に既存住宅の平均性能をZEH基準に

ZEHの基準は戸建て住宅にも当てはまります。国交省と経産省、環境省は2021年に公表した「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方」で、遅くとも2030年までに住宅の省エネ基準をZEH基準まで引き上げ、適合の義務化を目指すとともに、2030年に新築住宅がZEH基準を満たすようにする方針を打ち出しました。

さらに、2050年には既存建築物の平均性能がZEH基準を満たすようにするとしています。今後はさらに住宅の断熱化が進むでしょう。

 

まとめ:予算内で最も効果がある断熱工法を!

さまざまな種類がある断熱材でコストを重視するなら無機繊維系、高い断熱性能を期待するなら発泡プラスチック系のフェノールフォームが優秀です。ただ、断熱性能には施工技術の高さも影響します。発注業者を決める前によく話を聞き、予算内で納得のいく断熱工法を選んでいきましょう!