【プロに聞く】2023年の地価公示は上昇!二極化が進む中、土地選びで大切なこととは

2023年6月17日

家づくりの際、土地選びから始める方も多いのではないでしょうか。土地購入の際にやはり気になるのは、土地の将来的な価値。自分が住みたいエリアが今いくらなのか、将来土地の価値は残るのか…などなど、気になる点は多いものです。

今回は、2023年の地価公示について「土地のプロ」にインタビュー!地価が上下する要因や地価の二極化について、くわしくお聞きしました。

 

お話を伺った方…渡辺 智(わたなべ さとし)さん

【資格】宅地建物取引士・第二種電気工事士など

【経歴】

中堅マンションデベロッパー(新卒入社の年末にバブル崩壊で倒産)  

中堅不動産仲介会社、不動産仲介会社の共同起業を経て、家業を継承

富士住宅株式会社 代表取締役

 

【実績】

土地から購入での注文住宅は400件以上 

一般の不動産取引は1000件以上

 

そもそも地価とは

地価公示についてご紹介する前に、「そもそも地価って何?」「地価はどうやって決まるの?」と、地価についてよく知らない方も多いのではないでしょうか。地価はその名の通り「土地の価格」を指します。

年に1回行われる地価公示とは、その年の1月1日時点における全国の土地価格を公示すること。国土交通省が発表するもので、金融機関の評価や不動産取引での時価評価基準などに利用されます。

2023年の地価公示は全体的に上昇傾向となっています。ここではまず、地価が上昇・下落する要因を紐解いていきましょう。

 

地価の上昇・下降の要因とは?

 

ー「地価の上昇や下落」という言葉をよく耳にします。地価が上下する主な要因は何ですか?

 

大きく分けて①景気、②需要と供給 の2点が挙げられます。

景気の影響は、物価が変動する要因とあまり変わりません。景気が良くなれば価格は上がりますし、景気が悪くなれば下がります。物価も土地も、市場に出回るものであれば同じ動きをしますね。

 

ーなるほど。2点目の需要と供給とは?

 

こちらも不動産に限った話ではありませんが、変則的なケースが起こった場合に需要と供給(需給)のバランスが変わります。需給のバランスが変わることで、地価の上昇・下落という現象が起こります。

 

ー不動産でいう「変則的なケース」とは何ですか?

 

地価上昇の顕著な例でいうと、新しい駅が出来ることです。商業施設などが入っている大きな駅やターミナル駅が出来た場合、駅周辺は便利になるため地価は上昇します。駅の開発だけでなく、人気のタワーマンションが出来た際も顕著に地価が上昇しますね。タワーマンションの周りにあるマンションも、タワーマンションに引っ張られて全体の相場が上がります。

一方で、火葬場やゴミ処理場などの嫌悪施設が建つと地価は下がります。

 

ータワーマンションが建つことで、日当たりなどは関係するのでしょうか?

 

大いに関係します。タワーマンションの建設で一般的に地価は上昇する一方、タワーマンションで日陰となる地域は地価が下がります。

 

2023年の公示地価は全体的に上昇!要因は?

3月下旬に発表された2023年の公示地価を見ると、地価上昇が確認できる都道府県は24、地価下落が確認できる都道府県は22となっています。2023年の公示地価にはどのような特徴があるのでしょうか。

 

全国的にプラスとなっている要因

 

ー公示地価が全国的にプラスとなっているのは、景気が良くなっているからなのでしょうか?

 

「景気が良くなっているから」の一言で済ませるのは少し乱暴ではありますが、景気の側面も大きいとは思います。一般的に「景気が良い」という言い方をするのであれば、起点となるのは給与の上昇です。

給与が上がると、「何かを買いたい!」と購買意欲が高まります。大勢の購買意欲が高まることで需要も上がるため、多少値段が高くても買ってくれる人が現れます。物の値段が上がっても需要が下がらない場合、会社の収益も上がりますよね。最終的には、会社の収益が上がると給与が上がる…といった仕組みになります。

 

ーこれが一般的に「景気が良い」とされる状態ですね!

 

はい。では物の値段が上がっている現在はどうかというと、景気が良いと感じる方は少ないのではないでしょうか。コロナやウクライナ戦争などさまざまな要因がからみ合って物価が高騰している一方で、給与が上がった実感はあまりないですよね。

しかし春闘(春に行われる賃上げ要求を中心とした活動のこと)の結果を見ると、2023年の賃上げ平均率は30年ぶりの高水準なんです。

 

ー給与は上がっているということですか?

 

そうですね。大手企業を中心に給与は徐々に上がっている、というよりも上げざるをえなくなっているのです。「物の値段が上がったから給与も上がった」といったように、給与起点ではなく物価起点で景気が変わっているように感じます。

そのため実感は得られずとも数字だけを見るのであれば、景気は良い方向に向かっていると言ってもよいでしょう。

 

景気よりも大きな要因とは

 

ー公示地価が上がった要因として、ほかにどのようなことが挙げられますか?

 

やはりコロナ禍の影響が大きいと思います。コロナ初年度は、家を売りたい側も買いたい側も双方とも身動きが取れなかった時期。中古物件があまり出回らなくなり、少ない物件に購入希望者が集まりました。

 

ー需要と供給のバランスが崩れたのですね!

 

そうです。少ない供給量に多くの需要が集まったため、住宅の実勢価格が上昇しました。

 

ー実勢価格とは何ですか?

 

実勢価格とは、市場で実際に取引された金額を指します。供給量に比べて需要が大きいと「高値でも買ってくれるんじゃない?」と業者が考え、価格を吊り上げます。実際に高値で購入した人がいた時点で、実勢価格が上昇したとなるわけです。

 

ーなるほど。コロナ時期は多少高くても購入する人が多かったのですね。

 

コロナ時期に住宅購入を希望する人が多かったというよりは、売る側がなかなか売りに出せなかったという側面のほうが大きいと思います。これは、子どもが学校へ入学するタイミングや相続が発生した時など、不動産を購入したり手放したりするタイミングはかなり限られているためです。

 

ーたしかに、「小学校に入学するタイミングで引っ越しをしたい」など、買う側はある程度希望のタイミングが決まっていますよね…。「売る側がなかなか売りに出せなかった」のはなぜですか?

 

コロナ時期は、遠方から親族みんなが集まることは出来ませんでした。そのため相続が発生した場合に親族会議を開けず、さらに言えば親族間でもめ事になっても調停に集まれない…という状況が続いていました。

 

ーなるほど。相続した土地や住宅があったとしても、売りに出せない事情があったのですね。

 

はい。要はコロナ禍をきっかけに需要と供給のバランスが崩れ、住宅価格の相場ひいては公示地価が上昇したのではないでしょうか。

ただ、コロナ禍の相続以外にも複合的な要因が含まれているため一概に断言はできません。

 

2023年公示地価で変動率が高い地域はどこ?地価の上昇率・下降率トップ10

公示地価は全体的に上昇傾向にあるといわれていますが、細かく見るとどのような特徴があるのでしょうか。地価の上昇率・下降率ランキングをもとにご説明します。

 

地方都市の地価上昇が顕著な要因

 

ー2023年の地価公示では、3大都市圏だけでなく北海道や広島、福岡などの地方都市の地価も著しく上昇していました。地方都市の公示地価が上昇しているのは、テレワークの普及といった要因が大きいのでしょうか?

 

コロナ禍によるテレワークの普及というのも、1つあると思います。現に神奈川では葉山や鎌倉など、不便な海沿いの土地やマンションが売れていたのは事実です。

しかし、今回注目すべきは地方都市の中でどの地域が上昇しているのか?という点だと思います。

 

ー地方都市の中でとはどういう意味でしょうか?

 

地方都市の公示地価が上がっていると一言でいっても、細かく見てみると実際に地価が上がっているのは地方都市のすぐ近くであるケースが多い傾向です。地方都市の中心部も上昇しましたが、それ以上に地方都市近郊の上昇率が高かったんです。

 

ーなるほどですね…。なぜ地方都市の近郊が上がったのでしょうか?

 

都市部の地価が高すぎるほか、売っている土地やマンションの母数も少ないためだと思います。需要と供給のバランスが崩れていて高止まりしている都市部ではなく、比較的手ごろな近郊部の住宅を選ぶ人が増えたのでしょう。

 

進む県内での二極化

ー今回の地価公示を見ると、変動率上位ランキングも下位ランキングでも、北海道エリアが目立ちます。県内での二極化が進んでいるのでしょうか?

出典:国土交通省

 

公示地価上昇率トップ10を見ると、すべて北海道が入っていますよね。注目していただきたいのが、北海道内10地域のうち1つも札幌が入っていない点。もし地方都市自体が上昇傾向であるならば、札幌も入っているはずですよね。

 

ーたしかに!ということは、北海道でも札幌「近郊」が伸びているのですね?

 

そうなんです。もちろん札幌も上昇しているのですが、北広島市や江別(えべつ)市・恵庭(えにわ)市など、札幌の近くにある地域の地価が急上昇しているんです。これも、「都市である札幌は高すぎるので近郊に…」という人の流れによるものだと思います。

新たな需要という観点で述べるのであれば、プロ野球北海道日本ハムの新球場「エスコンフィールド」が北広島市にオープンしたのも大きいでしょう。

 

ー新しい需給のバランスというのもあるのですね…。反対に地価が下がった地域のランキングも、北海道が目立ちますね。

 

公示地価が下がった地域を見ると、聞き覚えのない地域が多いです。県内での二極化が進んでいるというよりは、「都市と里山どちらも含まれた地域」において、二極化が進んでいるという表現のほうが正しいでしょう。

 

なぜ地域によって地価に差があるの?地価の格差が生まれる要因とは

同一県内でも地価の格差が広がっている現在。そもそもなぜ地価の格差が生まれるのでしょうか。

 

地域の利用用途はどれくらいあるのか

 

ー地価の格差が起きる要因は何ですか?

 

広い意味でいうならば需要と供給の問題となりますが、細かく見ていくと「利用用途がどれくらいあるか」という点かと思います。たとえば自然いっぱいの田舎であっても、観光地として優れている地域は多くありますよね?観光地として機能している地域であれば、ホテルやお土産物屋さんなどの施設を設置できます。観光地としての人気が高まれば新たな雇用も生まれますから、マンションやアパートなどの収益物件も増えていくでしょう。

 

ーなるほど。建物が居住以外の用途として使えるのであれば、その地域は栄えていくのですね!

 

そうですね。建物の利用用途が居住用に限られているような地域であれば、貸したくても借り手がいない、売りたくても買いたい人がいない…という現象が起きてしまいます。

利用用途が高いか低いかによって、地価の格差は生まれていきます。

 

地価の二極化は今後も進む?

 

ーコロナ禍でテレワークの普及やお家キャンプが人気になるなど、大きくライフスタイルが変化していると感じます。利用用途があまりない地域でも、コロナ禍をきっかけに新たな需要は生まれると思いますか?

 

大いにチャンスはあると思います。地価の二極化が進むか、地方の活性化が進むかというのは、過渡期に入っているかなと。

私は神奈川の都市部と山梨の河口湖付近で2拠点居住をしているのですが、地方における別荘地の金額は急上昇しているなと感じます。山梨の河口湖は「ソロキャンプ」などでも話題となった場所であるため、別荘地としてではなく居住用としても、このエリアの土地を求める方が増えたのでしょうね。

 

ーアニメなどでも話題になりましたよね!

 

はい。近所には聖地と呼ばれているキャンプ場があります(笑)

富士五湖周辺のように、コロナ禍という特殊な環境で新たな価値が生まれたという地域は多くあります。都市部の超高額な土地を買うよりも、新たな働き方を生かして里山に住んでみたり…といったように、「あえて」不便な土地を選択するというのも面白いのではないでしょうか。

二極化構造はなぜ問題なの?

 

ー地価の二極化で懸念されることは何ですか?

 

地価の二極化はずいぶん前から問題視されていますが、二極化が問題というよりは二極化軸を「つくり出している」ことが問題だと感じています。事業用の土地となると話は別ですが、居住用の土地であればそのほとんどが「都市部」でも「里山」でもありません。商業地や中心部の一等地に家を建てたい方も少ないでしょうし、周りに自然しかないような里山に住みたい方も全体で見れば少ないですよね。居住用として選ばれるのは大抵、都市中心部でも里山でもないその間のゾーン。二極化で言うなら「白」でも「黒」でもない「グレーなゾーン」だと思うんです。

 

ーそういわれるとたしかに…!

 

はい。もちろん商業用の土地を考えているのであれば話は別ですが、居住用の土地である場合は、二極化構造についてあまり考えないほうが良いと思います。昨今では二極化構造に過敏になりすぎて「負け組になりたくない」などの理由から土地選びで身動きが取れなくなってしまう…というケースも多く見受けられます。

 

二極化構造が解消される手立ては?土地選びで押さえたいポイントも併せて解説

地方と都市部で広がる二極化構造は、解消されるのでしょうか。土地選びで押さえたいポイントも併せてお聞きしました。

 

新たな需要を地方が生み出す

 

―地価の二極化はやはり止められないものなのでしょうか?

 

自由経済である以上、土地の利用用途が重視されて二極化が進むことは、ある程度仕方のないことだと思います。東京都港区の一等地と、周りに商業施設が全くない里山の価値(=値段)が、同じなわけはないですから。

 

ーなるほど。地方でも新たな利用用途を生み出さなければ、二極化は広がる一方ということですね。

 

そうですね。ただコロナ禍におけるテレワークの増加やお家キャンプの流行などを機に、新たな需要が生まれていることは確かです。

 

ーなぜコロナ禍でこんなにも市場の動きが変わったのでしょうか?

 

コロナ禍では、市場や社会の動きが変わらざるを得なかったためだと思います。緊急事態宣言を国が発令した時は、電車にも乗れず外出もできない、出社もできませんでした。そのためリモートで仕事をするしかなかったし、遊ぶ場所も人の少ない山や川などに限られていました。従来のライフスタイルでは立ち行かなくなったために、仕方なく獲得した価値基準だったんです。

 

ーなるほど。急激に変化を求められた状況でしたよね。

 

はい。コロナ禍のように多くの人を巻き込む大きな突然変異が起こるとき、市場の動向も動きやすいといわれています。コロナ禍を追い風に新たな価値の創造を各地方が行うことで、地方も新たな需要を獲得できるのではないでしょうか。

 

土地選びで大切なこと

 

ー二極化構造で考えない土地選びが大切だとお聞きしましたが、土地選びで押さえておきたいポイントはありますか?

 

結局、居住用の土地であれば「その土地でどのように暮らしたいのか?」を考えることに尽きると思います。私の場合はキャンプみたいな暮らしがしたいという思いから、地方の河口湖周辺にも家を構えています。私のような考えを持つ人がいる一方で、「徒歩圏内にコンビニが欲しい」「安全な通学路が近くにある土地が良い」など、理想の土地は人それぞれですよね。

 

ー地方か都市部か、はたまたグレーゾーンかという軸で考えないということでしょうか?

 

もちろん、土地の価値が上がるか下がるかは気になってしまうものです。一方で土地の価値だけで土地選びを考えてしまうと、本質的な「暮らし」の部分を見落としてしまいがちです。

また土地を購入した後、売らずに住み続けるのであれば、土地価格は上昇せず、むしろ安くなるほうが良いとも言えます。土地の価格が上昇すれば固定資産税の評価も上がり、毎年の税金が増えてしまうことだって起こるのですから

 

ーなるほど。居住用かどうかや、将来的に売る可能性があるかも考えるのですね。

 

そうですね。事業目的なら当然ですし、居住用であっても将来の売却を視野に入れるのであれば価格の動向は無視できません。一方で売らずに住み続けることが前提なら、土地の価格はむしろ上がらないほうが経済的には良いとも言えるんですどのような暮らしをしたいかを念頭に置きながら、土地選びについて考えることが大切なのだと思います

 

まとめ

今回は、2023年の公示地価をもとに地価の二極化構造が発生する要因や土地選びで大切なことをお聞きしました!土地選びのコツは、土地の価値ではなく「暮らし」を起点に考えること。

理想とする「暮らし」をイメージしながら、後悔のない家づくりをしていきましょう!

 

会社名 富士住宅株式会社
代表取締役社長 渡辺 智
所在地 神奈川県相模原市南区南台6丁目19番8号
設立 1976年4月
事業内容 注文住宅のための土地選びコンサルティング

不動産の売買及び仲介

旭化成ホームズ不動産情報ネットワークACE会員

公式サイト https://fuji10.com/
YouTube https://www.youtube.com/channel/UCTrcFBND0Qu-jgdCFO_SsRg