
家電を遠隔で操作⁉話題のIoT住宅を専門家が徹底解説
最近よく聞くIoT住宅とは何なのでしょうか?IoTとは、「Internet of Things(モノのインターネット」と呼ばれるもので、日常のあらゆるモノがインターネットでつながるという考え方。では、IoTを取り入れた住宅とはどのようなものなのでしょうか。
この記事では、IoT住宅についてパナソニック株式会社の方にインタビュー!IoT住宅のメリット・デメリット、具体的な事例や今後の展望などを語っていただきました。
お話を伺った方
井手 伸一郎(いで しんいちろう)さん
パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社 九州電材営業部 熊本電材営業所 所長
吉田 賢広(よしだ やすひろ)さん
パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社 エナジーシステム事業部
マーケティングセンター ソリューション開発部 西部市場開発部 九州市場開発課
下田 早紀(しもだ さき)さん
パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社
九州電材営業部 熊本電材営業所 住宅市場推進担当
そもそもIoTってなに?
「そもそもIoTとは?」「あらゆる物とインターネットがつながるってどういうこと?」とIoT住宅について疑問に思う方も多いのではないでしょうか。IoTという考え方が生まれた背景やIoTの仕組みをご紹介します。
IoTを通じて情報を集め、AIが解析
ーそもそもIoTとは何ですか?
IoTとは、あらゆるモノとインターネットがつながることです。家電や電気設備をはじめ、家具やちょっとした小物など、あらゆるモノがつながることで新たなネットワーク社会が実現できると期待されています。
ー家具もインターネットにつなげるとは、どういうことですか?
あくまでもイメージとなりますが、椅子に体重計機能を備えてインターネットにつなげるとしましょう。椅子に座ると、自動的に体重や体脂肪のデータがインターネットを経由してサーバーに蓄積されます。すると、AI(人工知能)がデータをもとに分析を行い「体脂肪率が増えています」とお客様にお知らせすることが可能になります。
家電や電気設備のみならず家具もIoT化することで、人々の健康についてもサポートできるという可能性を秘めているのです。
出典:パナソニック㈱ ソリューション開発部 HomeIoT勉強会22年3月 資料抜粋
ーなるほど。AIとは何ですか?
AIとは人工知能のことです。言語を理解したり問題について考えたりするなど、今まで人間が行っていた行動をコンピューターに行わせる技術を指します。AIとIoTが密接につながることで、快適な社会をつくることができます。
IoTが目指す新たな社会
ーIoTとAIの融合で、具体的にどんな社会になると考えますか?
国が取り組んでいる「society5.0」構想にもとづき、経済を発展させながら社会的課題を解決する社会を目指しています。
ーsociety5.0とは何ですか?
出典:内閣府ホームページ Society 5.0 – 科学技術政策 – 内閣府 (cao.go.jp)
society5.0とは、インターネット空間と現実空間を融合させたシステムによって人間中心の社会をつくるという考え方です。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指します。
ーsociety5.0の社会になることで、具体的にどのような社会になるのですか?
現代社会では少子高齢化によって働き手が減少しているという課題がありますよね。society5.0では、ロボットや自動運転車などの支援により人が行う作業を減らし、社会問題を解決します。
IoT技術でデータを収集してAI(人工知能)が分析することで、私たちの生きる社会はより豊かなものになるでしょう。
IoTの仕組み
ーIoTの仕組みを教えてください。
AI機能やデータの管理はサーバーが行い、データの分析結果をモバイル端末で見るという仕組みです。たとえば帰宅後、スマートフォンに「照明つけて」と指示する場合、サーバーに指示が通達、IoTコントローラーを経由して照明がつきます。つまり指示をするのはモバイル端末、頭脳として指示をするのがサーバーとなり、実行するのがIoTコントローラーになります。
IoT住宅とは
IoTの仕組みを取り入れたIoT住宅とは、どのような住宅なのでしょうか。実は、省エネの考え方も深く関係しています。
IoT住宅とは、その人にとって快適な住宅ということ
ーIoT住宅とは何ですか?
IoT住宅とは、家電や電気設備などあらゆるモノをインターネットにつなげて
“ライフスタイルに合わせて快適な暮らしを実現する”住宅のことです。
ー具体的にどのような機能ですか?
スマートスピーカーとIoTコントローラーが連携していれば、「おはよう」と話しかけるだけでエアコンや照明が動くなど、家電や設備を音声でコントロールできます。
またGPSと連携すれば帰宅中であることを家が把握し、家族のスマートフォンにプッシュ通知を送ることで快適な空間を提案。帰宅している間にエアコンや照明が動き、電動窓シャッターがオープン、お湯はりが開始されます。
このように家族の働き方や暮らし方などのライフスタイルに合わせて家が変化する点が大きな特徴です。
ー先ほどAIとIoTの融合についてお聞きしましたが、AIとIoTがつながるとどのような機能が使えるのですか?
AIが情報を集めて分析し、天気や暮らし方に合わせて家のエネルギーをコントロールできます。
太陽光パネルをつけているIoT住宅の場合、毎日のエネルギー使用量をAIが学習・分析します。天気予報と連携して「翌日は晴れで、発電量・使用電力の状況のバランスも問題ない」と判断すれば、翌日は太陽光で創出した0円の電気でエコキュートを稼働させ、お湯をつくります。
このようにAIをもとに情報を収集・分析して設備を自動でコントロールするため、節電に貢献できるのです。
ーエネルギー・天気のほかにAIはどのような分析をしますか?
空気清浄機と連動して室内の空気環境(汚れ具合)も時間ごとに学習できます。たとえば花粉の多い季節に子どもが外で遊び、花粉を家に持ち込んでしまうことがありますよね。AIが子どもの帰宅時間を分析することで、帰宅前には空気清浄機を稼働させることもできます。空気が汚れたと同時に先回りして、家の空気環境を綺麗にできるのです。
IoT住宅の考え方は省エネから
ーIoT住宅は省エネにもつながるのですね!
IoT住宅の考え方は、ネットワークを活用して、街全体でエネルギーをコントロールするスマートタウン(エネルギーの地産地消)構想から始まったと言えるでしょう。
ーなるほど。IoT住宅の考え方は、スマートタウンから始まったのですね。
計測データをもとに設備を自動コントロールしたり、IoTやAIであらゆるモノ(エネルギー含め)が手動・自動でコントロールできるなど、時代の変化とともにIoTの可能性が広がっていきました。
IoT住宅という言葉自体は5年ほど前から使われるようになりましたが、「より快適な暮らしへ」という考え方の本筋は変わっていません。
また現在では、IoT住宅を通じて社会問題の解決にもつなげていくという考え方に変化しています。
ー省エネから社会問題の解決まで、かなり広い考え方ですね。
そうですね。将来的には人々の健康を管理して社会問題を解決するところまで担っていくと期待されています。
以前の省エネとのちがい
ー省エネと聞くと、夏場のエアコンは28度に設定するなど我慢が多く、快適ではないイメージがあります。
たしかに以前の省エネは我慢のイメージでしたが、現在国が推奨しているのは、我慢しない快適な省エネ。IoT住宅でも、あくまで快適に生活することを前提にしてエネルギーをコントロールしています。
ー快適な範囲での省エネは実現可能なのでしょうか?
IoT住宅では、‘‘人々の意識+自動でエネルギーをコントロール”という2軸で省エネを実現しています。たとえば「エネルギーを使いすぎですよ」とアラートを出すだけでも、10%のエネルギーを削減できると言われています。人々の意識に加えてAIが自動でコントロールすることにより、使用エネルギーを削減できるのです。
今後は電気自動車の普及などを通して、圧倒的に消費する電力量が増えると言われています。無理せず持続可能な範囲での省エネが求められるのです。
スマートハウスとの違い
ースマートハウスとIoT住宅の違いはなんですか?
スマートハウスとは、2010年代ごろから登場した省エネ住宅のこと。IoTを駆使したスマートハウスも増えており、近年ではほぼ同じ意味で使われています。
IoT住宅のメリット
IoT住宅は、暮らし方に合わせて快適に家電や設備をコントロールしたり、かしこくエネルギーをコントロールできる点が特徴だと分かりました。もう少し具体的にIoT住宅のメリットについて見ていきましょう。
経済的な負担の軽減
ーIoT住宅にすることで、経済的にどのようなメリットがありますか?
先ほど少しお話しさせていただきましたが、太陽光パネルを導入している住宅であれば、日頃のエネルギー使用量をAIが学習・分析して天気予報と連携します。AIが効率的に電気代を使えるように住宅をコントロールすることで、無理なく電気代を節約できるのです。
生活のしやすさ
ーどのような点で生活しやすくなりますか?
スマートフォンの操作や、スマートスピーカーがあれば自分の言葉ひとつで家電や設備を動かせるため、生活するうえでのあらゆるストレスが軽減されます。
たとえば、リモコンを探すストレス。エアコンや照明、テレビのリモコンをどこかに失くして家族総出で探すなんてこと、ありますよね。IoT化することでリモコンが不要になり、「エアコンつけて」と話すだけで操作できます。
また帰宅時は、夏であれば部屋が暑く、冬の場合は部屋が寒いなどのちょっとしたストレスもありますよね。IoT住宅の場合、外出先からスマートフォンで家の中を操作することで、四季を問わずいつでも快適に過ごせるのです。
防犯面でのメリット
ーIoT住宅を導入することで、防犯面においてどのようなメリットがありますか?
IoT住宅では、家に誰もいないのにカギが開いている場合、スマートフォンにプッシュ通知がきます。きちんと戸締りしたか心配な時もスマートフォンで確認できるので、一日不安な思いを抱えることもありません。
また、万が一玄関ドアの施錠を忘れていた場合でも、スマートフォンから施錠できるため安心です。
防災面でのメリット
ーIoT住宅を導入することで、防災面においてどのようなメリットがありますか?
家に誰もいなくても、暴風・大雨などの気象警報が発令されると自動で電動窓シャッターが降ります。そして蓄電池に電気を充電し、エコキュートにはタンクに水をストック(370L)できるようお湯をつくり始めます。
IoT住宅では、家が自動で停電や断水、飛来物による被害などに備えるため、長く安心して暮らせるのです。
IoT住宅のデメリット
良いことづくしのIoT住宅ですが、やはり課題もあります。メリットとデメリット、どちらも正しく知っていきましょう。
ハッキングなどのリスクがある
ーIoT住宅のデメリットや課題を教えてください。
IoT住宅ではモバイル端末で家を外から操作できるため、ハッキングや乗っ取りがあった際のリスクがあります。操作が便利で簡単すぎるのも、セキュリティ面をより強固なものにしないといけないためバランスが難しいところです。
ただしセキュリティに関しては、メーカーさまごとにかなり力をいれている分野だと考えられます。当社としても責任をもって対策しているため、この点は安心して使っていただければと思っています。
IoT住宅の普及で暮らしはどうなる?
今後IoT住宅が普及すると、どのような暮らしが実現できるのでしょうか。
在宅ワークでもストレスのない生活
ーIoT住宅によって、コロナ禍での暮らしはどう変わりますか?
IoT住宅では、在宅ワーク中にお客さんが来てもスマートフォンで来客対応ができるため、仕事を中断して離着席する必要がありません。
また非接触が推奨されている現在、エアコンや照明のリモコンなどを触る必要がないため衛生面でも安心していただけると思います。
暮らし方の多様化
ーIoT住宅で、どのような暮らしが実現するのですか?
多様な暮らし方に対応できるようになります。特にコロナ禍の現在、在宅ワークの増加により働き方が多様化しました。職場から少し離れた自然のある田舎に移り住んだり、都会の真ん中に最新鋭の家を建てたりなど、理想の働き方・暮らし方は人それぞれですよね。
IoTでつながることにより、どんな暮らしにも対応できるのです。
見守り機能で安心が続く
ー安心が続く家とは、どういうことですか?
子どもが一人で留守番をしている時や、飼っている犬や猫が一匹で家にいる時は、「空調は大丈夫かな?」「きちんと鍵を閉めているかな?」と不安な方も多いのではないでしょうか。IoT住宅で部屋にカメラを設置すれば、スマートフォンで簡単に見守ることができるほか、必要に応じて機器をコントロールしたり、屋内カメラを通して子どもに話しかけることもできます。
また、少子高齢化で老々介護も増えている現在、高齢者の方のみで住んでいるのはやはり不安なもの。トイレや照明、お風呂などの電気設備がつながることで、遠隔で見守ることも可能になります。
IoT住宅の事例は?
モノとインターネットがつながるIoT住宅。まるで夢のような家ですが、実在するのでしょうか。導入事例をご紹介します。
1台で家電や電気設備とつながる
ー実際にIot住宅はあるのでしょうか?事例を教えてください。
パナソニックが出しているのは、AiSEG(アイセグ)という機器です。エアコンや照明、エコキュート、電気錠、電気窓シャッターなど38台の家電や電気設備とつながっています。
ーAiSEGを取り付けることで、IoT住宅になるのですか?
そうですね。このモニターはIoTやAIに対応しているものになります。
モバイル端末から操作したり、スマートスピーカーに声で指示することによってAiSEGが起動し、家電や電気設備を動かします。
住宅のIoT化に備えて今できることは?
IoT住宅は便利ですが、設計や家の機能の面で制限はあるのでしょうか。IoT化に備えて今からできることをご紹介します。
基本はインターネットさえ通っていれば問題ない
ーIoT化のために、今からしておくべき設計はありますか?
IoT化のために何か特別な設計をする必要はありません。
注意する点といえば、IoT住宅はインターネット環境が必須であるため、回線工事がともなうインターネット環境と無線ルーターの準備が必要です。
太陽光パネルがあると〇
ー太陽光パネルは取り付けるべきですか?
IoT住宅はエネルギーを自動でコントロール出来る点も特徴ですので、太陽光パネルを取り付けるのがよいでしょう。
脱炭素社会の実現にむけて、様々な暮らしの変化がはじまります。電動車が普及すれば、今以上に多くの電気を消費する暮らしに変化するでしょう。
情報は常に新しいものを
ーIoT住宅について知っておくべきことはありますか?
IoTの領域は日々変化しているため、常に新しい情報にアンテナを張りましょう。IoTについての発信をしっかり行っていくことは私たちの課題でもあります。
まとめ
この記事では、話題のIoT住宅についてご紹介しました。IoTとは今後のよりよい社会をつくる鍵となっていることが分かりましたね。暮らし方が多様化している現在、快適さも人それぞれ。ただ便利になるだけでなく個人個人の暮らし方に寄り添うIoT住宅の標準化は、そう遠くない未来なのでしょう。
日々変化する社会に私たちも耳を傾け、常に新しい情報を取り入れていきたいですね!